誰より、とそれが当たり前だと信じていた。

「初めましてこんにちは、アスランの名実共に親友のラスティ・マッケンジーでっす」

軍人とは思えないほどに明るい少年が自己紹介した。
隣に立っているアスランが名実共って何だ、と呟いているのを聞きながら、キラは目を丸くする。
インドア派のアスランにアウトドア派っぽい友達。
静かにしてるのが好きなアスランに、騒がしそうな友達。
アスランの友達にしては珍しいタイプじゃないだろうか、と幼少時を振り返ってキラは思う。

「よろしく、キラ・ヤマトくん」
「よ、よろしく」
差し出された手に慌てて差し出し返すと、手を握ったままラスティがじっとキラを見た。
「な、なに?」
「ん〜」
じーっという音が聞こえそうなほどの視線に、キラは居心地が悪くてアスランに視線を向けて助けを求める。
アスランははあっとため息をついて、ラスティと呼んだ。
「キラが困ってる」
「あ、悪い悪い。いや、写真のまんまだな〜って思ってさあ。いやあ可愛い可愛い」
「…え?」
手を離して今度はばんばんと肩を叩いてくるラスティに、キラはすでについていけない。
「ご近所で評判だったっしょ。可愛い男の子が二人いちゃついてるのが目の保養とか」
「はい?」
「ラ〜ス〜ティ〜」
俺も生で見たかったなあと頷くラスティに、アスランが青筋を立てた。
キラは目を白黒させて、可愛い?いちゃつく?目の保養?と何が話題にされているのかも分からない。
そのキラの前でアスランがいい加減にしろ!とラスティ怒鳴っているが、ラスティはあはははははと笑っている。

「美人は怒っても美人だよな、アスラン」
「お前は人の話を聞け!」 
「聞いてる聞いてる。可愛いな、アスラン」
「聞いてないじゃないか!」
「キラを困らせるな〜っしょ?気をつけます」
「気をつけるんじゃなくて、す・る・な!」
はーいと返事したラスティをもう一睨みして、アスランがキラを振り返った。
「悪い、キラ。悪気はないんだ。いや、ある時もあるけど、今のはないんだ」
「え、あ、うん。いいよ、気にしてないし」
そうか、とアスランが安堵の息をつく。
その様子に、アスランはラスティと本当に仲がいいんだなと分かる。
キラにラスティを悪く思われたくなかったのだ。だからキラが気にしてないということにほっとした。
先程のやりとりもアスランがキラ以外に見せることがなかった面だ。

何だろう、ちょっと寂しい感じ?

キラしか知らないアスランが、ラスティの前にいる。キラの知らないアスランの友達。
キラにもアスランの知らない友達がいる。ずっと離れていたのだから当然のことだ。
それでも、心のどこかにぽっかりと穴が開いた様な気がした。


* * *


離れていた時は長い。ずっとずっと、片時も離れずにいた頃が嘘の様に長い。
その間にキラは月を離れてオーブへ移住した。
本当はプラントに行きたかったし、母であるカリダもそう主張していた。
キラはアスランとまた一緒にいたかったし、カリダもそれを望み、そして親しくしていたアスランの母レノアと会いたかったのだ。
けれど父ハルマはオーブへと強く強く主張した。二対一でも敵わないくらい強く。
どうしてなのか、キラは知らない。
けれど結局キラはアスランと会えないまま時を過ごすことになった。
それが悲しくて辛かった時期は過ぎた。キラには新しい友達もできたし、オーブの生活も楽しかった。
だから時々アスランを思い出すだけで、辛いな悲しいなという気持ちはなくなっていた。
なのに。

「なんでだろ」

キラは何やらじゃれあっているザフトの赤服二人を遠目から眺めていた。
怒ったり呆れたり笑ったりととても楽しそうだ。その様子を見ていると胸が痛くなる。
アスランは今キラと同じ場所にいるのに、離れていた頃には感じなかった痛みは一体何なのか。

「もうアスランと戦わなくってもいいのに。会いたい時に会えるし、話たい時に話せるのに」

ラスティが拗ねたらしいアスランに後ろから抱きついた。抵抗するアスランの頭をわしわしと撫でる。
そして振り向いたアスランに笑って。アスランがため息をついて、そして笑った。

「やだな」

ぽつりと呟いた声はキラの意識の範疇ではなく、また自分の耳にも届いてはいない。
けれどキラはただいやだと繰り返した。
アスランと一番親しかったのは自分だった。普段は目に見えて感情に波を立てないアスランを、目に見えて感情を変化させることができたのは自分だけだった。
なのにあそこにもいる。キラの知らないアスランの友達。キラの知らないアスランも知っているのだろうか。

アスランは軍人なんてできる人じゃない。
アスランがザフトにいると知った時からずっとそう思ってきた。なのに強いのだ、アスランは。
キラとマリューに向けてナイフを振り上げたアスラン。
イージスを軽々と操るアスラン。
どうしても子供の頃のアスランとはかぶらなくて。
こうして同じ陣営に属していても昔と変わらないアスラン。子供の頃と変わらず優しくて、説教魔で、心配性で。
なのにMSに乗ればそのアスランと同じ人物だとは信じられないくらいの動きをみせる。

戸惑う。
けれどラスティはずっとアスランと一緒なのだ。キラが信じられないアスランはラスティにとっては当たり前のアスランなのだ。
その違いが、キラを落ち込ませる。

僕が一番アスランのこと知ってたのに。一番近くにいたのに。知らないことなんてなかったのに。

ラクスには感じたことのない思い。
アスランの婚約者であったのに。いつかアスランと結婚するのだと言っていたのに。
それはラクスの語るアスランが、キラの知るアスランと同じだったからだ。優しい不器用な人。
ラクスの語るアスランは、キラの知るアスランと十分に重なる。
だからキラの知らないアスランの婚約者には、ラスティに感じるような思いは感じなかったのだ。

ふとアスランが視線を流してキラを見つけ、微笑んだ。


どくんっと心臓が音を立てた。


「あ…」

心臓に手を置く。
嬉しい。アスランがキラを見つけたことが。キラに微笑んでくれたことが。

アスランがラスティに顔を向け、キラの方へ指を差す。ラスティがキラを見つけ手を振ったのに振り返す。
そしてラスティがアスランの肩を両手で押して、行ってこいと言っているようで、アスランがラスティに手を振ってキラの方へと向かってくる。
それだけなのに、ほっと息をついた。泣きたくなるほど、ほっとした。

ラスティが嫌いなわけではない。どちらかといえば好ましいと思う。
けれどアスランと並ぶ姿がいやだ。
アスランのことを語るラスティがいやだ。
アスランがラスティのことを口に出すのがいやだ。
アスランが心を許しているのが分かるから。
アスランが頼りにしているのが分かるから。

僕しか知らないアスランだったのに。
僕が知らないアスランがいるなんて。

そう思う心が何なのかなんて、分からない。

end

それは嫉妬です。
いつも構ってくれる大好きなおにいちゃんが、友達と仲良さそうに歩いてるのを見てショックを受ける感じです。
僕の知らないお兄ちゃんだ、というあれです。ちなみに私に覚えは欠片もありません。そもそも一番上だし。
ただそんなニュアンス的にそんな感じです。

この話の時間はは種のアスキラ共闘中です。何故か生きているラスティ。何故かAAにいるラスティ。
そしてディアッカの出番は、気がついたらなくなってました(笑)。

リクエスト、ありがとうございました!

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