Au coeur〜君よ安らかに〜

海の前に立って目を閉じる。

安らかに、安らかに。どうか、ステラ。君が笑って眠っていますように。
俺は君のことを何も知らなくて。君の故郷も知らなくて。だから君の好きだった海へ祈りを捧げるよ。

目を開けて小さく微笑む。そして腕に抱いていた花束を海へと投げる。
空へと上げた両手。青い青い空。真っ白な雲。円を描く色とりどりの花。
それが微かな音をたてて深い青の海へと落ちて、波に乗って見えなくなった。

「おやすみ、ステラ」

砂浜から上がって階段を上る。
ゆっくりゆっくりと一段一段上って行くと、その上に車が一台止まっていた。
シンはその車にもたれて空を見上げている青年に声をかける。

「アスラン」

青年、アスランはシンの声に振り向いてサングラスを外す。眩しかったのか、一瞬目を細めた。
そんなアスランの側まで歩いていって、軽く頭を下げる。
「どうも、ありがとうございました」
少しばかり棒読みのように聞こえたけれど、アスランは気にしていないのか、いやと笑った。
「もういいのか?」
「はい」

ステラの墓参りをしたい。そう思った。衝動で花を買って、ああでもどこへ行こう。そう思って。
思い出したのはアスランの言葉。
守れなかった女の子がいたと言った。その子のことを何も知らないのだと言った。だからその子を悼む自分が墓だと。

誰かを悼む誰かが、その誰かの墓。

なら自分をステラの墓だと思っていいだろうか。でも手に持った花束をどうしよう。そう思った時に浮かんだのが海。
ステラの好きな海。ステラの眠る海には行けないけれど、海へ捧げればいつか届くような気がした。

「あの…」
「ん?」
「休みだったのに…スイマセンでした」
「いや。乗せてってやるって言ったのは俺だから」
気にするなと笑って、アスランが運転席のドアを開けた。
けれどバイクで行くと言えたはずなのに、お願いしますと言ったのはシンだ。
一人で行きたくない。そうじゃない。ただ…一緒にいてほしかった。
「シン、どうした?」
「…何でもないです!」
そんな自分の思考をアスランが読んだわけではないのは分かっているのに、カッと顔が熱くなった。
それを誤魔化すように助手席に回ってドアを開ける。

一人だと色々考える。失った家族。奪われた命。それに泣いて怒って。
そして新しくできた大切なものを守るために戦って。なのにたくさん失くした。
どうすればよかった?わからない。そうして失った大切な人達を思って。
そんなふうにぐるぐると考えて考えて考えて。そして何の答えも見えなくなってどうしようもなくなる。

だから、一緒にきてほしいと思ったのだ。

「あ、ストップ!」
「え?」

ブレーキがかかって止まる車から降りる。そして走って向かうのは花屋。そこで花束を作ってもらって走って戻る。
車に戻ってドアを閉めると、アスランが不思議そうにシン?と首を傾けた。

忘れていたわけではない。今、花屋を見て思い出したけれど忘れていたわけではない。
そう胸の内で言い訳をしつつ、バサッと作ってもらった花束をアスランに渡す。

「これ」
アスランは目を丸くして、は?と声を洩らした。
「ヨウランとヴィーノから」
そう言えば、ますます分からないといった顔になった。
当然だ。あの二人とアスランは仕事以外で接触したことがないのだから。けれど、共通点はある。


「ミーアさんの墓に供えてほしいって」


ミーア。ラクス・クラインの偽者をしていた女の子。その子の墓に花を、とシンに金を渡してきた二人。

「偽者でもいいって。それでも好きだって。ファンなんだって。本当は自分達で墓参りに行きたいけど、ないんだろ?」

利用されていたとはいえ、ラクス・クラインの姿と名を騙り、平和の象徴の名で戦争を煽る行動をした。
そしてその事実がプラント国民の怒りを湧き上がらせる。
ミーアの墓を作ればその墓に何をするか分からないほどの怒りを。だから作らない。作れない。
シンには理解できないけれど、プラントにとってラクス・クラインとはそれほどに大きな存在なのだそうだ。それほどに神聖な存在。
ラクス・クライン本人はミーアの墓が作られないことに難色を示したというけれど、加えられるかもしれない危害にとうとう受け入れたと聞いた。

「あんた、悼む心が墓だって言ってただろ?
ならミーアさんのこと知ってるあんたが、ミーアさんを思う人の中で一番強く思ってると思うからって」

だからミーアの墓に花を。ミーアの墓であるアスランに花を。
そう言えば目を見開いて花束を見ていたアスランが思わず、といった様子で呟いた。
「あの、二人が…?」
こくんと頷けば、アスランの顔が歪んだ。
泣く。それは思わずそう思ったほどで。けれど次の瞬間にはアスランは笑った。

嬉しそうに、嬉しそうに。

「確かに預かるよ。二人にありがとうと伝えてくれ。ミーアもきっと喜ぶ」

そう言って、そっと花束を受け取るアスランに、分かりましたとシンはぎこちなく頷く。

守れなかった女の子。その子のことを何も知らない。故郷すら知らない。
アスランにとってはミーア。シンにとってはステラ。

発進した車の中、シートにもたれてシンが呟く。

「何にも知らないけど、あの笑顔が綺麗だってことは知ってる」

この人が一緒にきてくれてよかったと思うのは、思いを共有できるからなのかもしれないし、何も聞かないでいてくれるからなのかもしれない。
そう思うシンの隣からそうだな、と声が聞こえて、うんと目を閉じた。

end

リクエスト「Au coeur」の続編と「シンがアスランを連れてステラの墓参り」でした。
ヴィーノとヨウランはミーアのファンでいてくれるといいなあと思います。
そしてシンは敬語になったりならなかったりと、忙しい子だと思い込んでます(笑)。

リクエスト、ありがとうございました!

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