秋だ。
秋といえば食欲の秋、読書の秋、芸術の秋、運動の秋。つまり何でもこいな季節だ。
その季節に行われるイベントといえば学園祭。骸はぐっと拳を握り、目を伏せた。

「学園祭といえば体育祭と文化祭です。丸一日、僕はMじゃないSです!と叫びたくなるほど走り回った体育祭が終わり、残された文化祭。激しく面倒です。面倒ですがあえて言いましょう」

骸はカッと目を見開くと、叫んだ。

「コスプレ喫茶万歳!!」


「黙れ変態」

ガゴンッとアルミの盆が盛大な音をたてた。


文化祭パニック

「よお、恭弥。珍しいな、お前が人込み歩いてるなんて」

文化祭は外からの来客を許しているため、いつも以上に人が群れている。
正直、苛々するし咬み殺したくもなるが、これが収益にも繋がるのだ。今日は黙認。
そんな雲雀にへらへら笑って近づいてきたのは金髪美形、ディーノだ。

「お前のことだから応接室にこもってるんだと思ってたぜ」
そうしようと思っていたし、するつもりだった。恋人と二人、静かにゆるりとした時間を過ごすつもりだった。
けれどできない理由ができたのだ。天敵のせいで。
雲雀の天敵が、恋人をクラスの出し物に参加させないなんて恋人失格だの、恋人を無責任の卑怯者にするつもりかだの、実に腹立たしい口調と殺意すら覚える仕草でのたまったせいだ。
殺す。咬み殺すを通り越してそう思ったけれど、それを敏感に察した恋人が涙目で必死に頼んできたのだ。
出し物の担当時間が終わったらすぐに応接室に行きますから。ダッシュで!マッハで!星よりも早く!!
何言ってるのこの子、と思ったけれど、なら光より早く走っておいでと頷いた。
ありがとうございます!と諸手を上げて喜んだ恋人は、はっと気づいたように光!?と叫んだ。
その時のことを思い出せば、恋人の可愛さと共に天敵の鬱陶しさをも思い出して機嫌が下降する。

「何しにきたの」
低い低い声と殺気すらこもった視線に、ディーノがびくっと体を震わせる。
それでも答えるのは大物の証拠か鈍いのか。
「恭弥の文化祭見に」
「いらない。帰れ」
「そう言うなって。隣のよしみだろ」
「知らない。帰れ」
トンファーを握り構えれば、まて、とディーノが後ずさる。
何でお前はすぐにトンファー取り出すんだ、と自分は防御にと鞭を取り出す。
けれど人込みの中だ。ためらうディーノと一切ためらわない雲雀では勝負は見えていた、が。

「酷いじゃないですか、綱吉くん!僕は心に正直になっただけなのに!!」
「妹のメイド服見て興奮するなよ、変態!」
「綱吉くんも可愛いですよ。凪とおそろいのメイド服。いらっしゃいませ、ご主人様とか言ってください」
「誰が言うか!」
「だからそれで殴らないでくださいよ!」
「いらっしゃいませ、ご主人さま?」
「かっ、可愛いです、凪!萌えます!!」

「…メイド?ご主人様?」
何、と聞こえてきた会話とドゴオッという音に呆然とするディーノの前、雲雀がちっと舌打ちした。
そして声の方へと向かうのを見て、ディーノは慌てて後を追う。
風紀委員長の雲雀にとって、聞き逃せない内容だと気づいたのだ。きっと血を見る。止めなければ!!

「恭…っ」
「綱吉」
「ヒバリさん!」

一つの教室に辿りつき、雲雀が立ち止まったのを見て、ディーノが口を開くが、声をかける前に雲雀が声を上げた。
その声に振り向いた少女が一人、嬉しそうな顔で駆け寄ってきた。
薄い茶色の髪を背中まで流した少女は、平凡であるというのに仕草が大変に可愛らしい。まるで小動物を見ているようだ。
膝下の黒いワンピースと白のエプロンドレスを身にまとい、ロングブーツをはいている。
その格好を上から下へと視線で流し見て、雲雀がよく似合ってる、可愛いよ、と微笑めば、綱吉と呼ばれた少女が恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに笑った。

確かに可愛い。けれどその前に雲雀のありえない言動に怯えた。雲雀が可愛いよと微笑んだ瞬間、ぞわっと鳥肌が立った。
誰だこいつ、そんな視線で雲雀を見ているディーノに気づいたのか、綱吉がきょとんとした。そしてディーノの視線の先にいる雲雀に向けて首を傾げた。

「後ろの男の人、ヒバリさんのお知りあいですか?」
「知らないよ」
「って、おい!隣のお兄さんだろーが!」
「隣人なんて、隣に住んでるだけの他人でしょ」
「恭弥あ!?」

こういう人間だと知ってはいたけれど、可愛がっている相手につれなくされれば悲しくもなる。
まあ、つれなくされなかったことはないので、すぐに復活するが。
それまでの間、ドアに額をあてて落ち込んでいると、綱吉があたふたとし始め、大丈夫ですか!?と顔を覗きこんできた。
大丈夫と笑う前に、ムッとした顔をした雲雀が、気にしなくていいよとディーノをひと殴り。しかもトンファー。
訳、綱吉に心配かけるなっていうか、綱吉の気を引くな。咬み殺すよ。
…理不尽だ。

へいへいと頭をさすりながら起き上がるのは、トンファーひと殴りで留まっている内に浮上しなければ血を見ることになるからだ。文化祭にきてまで血みどろになりたくない。
そんなディーノをじっと見上げてくる少女に気づいて視線を落とせば、逸らされることなく目が合った。右目を桃色の花とそこから舞い上がる花びらの刺繍がしてある眼帯で隠しているため、左目とだが。
少女の肩より少し下あたりまで流れた黒髪には、フリルのついた白いカチューシャが乗っている。まとう衣装は綱吉と同じ。先の会話からしてメイド服だ。
何故綱吉はカチューシャがなかったのだろうかと、ここに至って疑問に思った。そしてこの子もその衣装がよく似合っている。
とりあえず笑ってみると、少女も小さく微笑んだ。お、可愛い。

「いらっしゃいませ、ご主人さま」

「…へ?」
「なあああぎいいい!!!」
突然の言葉に目が点になると、何故か地に沈んでいた少女ががばっと起き上がり、凪と呼んだ少女の肩をがしっと掴んだ。
「そんな萌え台詞言わなくていいんですよ!?」
「?でも骸さま、さっき」
「僕は例外です!いいですか?凪。男はすべからく変態です。可愛い可愛い可愛い凪にそんな萌え台詞言われたら、男は例外なく襲いにかかります!雲雀恭弥とて例外ではありません!!」

凄い言われようだとディーノはあっけにとられ、凪は骸を見上げている。あれを無垢な目というのではないだろうか。ふと思った。
そんなディーノの側でお前が変態だろ、と綱吉が力一杯叫ぶ骸を冷めた目で見て、雲雀が僕を巻き込まないでくれる、と不愉快そうに顔をしかめた。それでも骸は止まらない。ぐるりとディーノの方を向いて、びしいっと指を突きつけてくる。

「いいですか!凪はお嫁になんて絶対に出しませんからね!肝に銘じておきなさい!!」
「お、おう」

別にお嫁にほしいと思ったわけではなかったが、とりあえず勢いに押されて頷く。それでもじーっと半眼で睨みつけてくる骸。
一体どうしろと、と思いつつ視線を合わす。そしてお、と思う。発言が変態じみているが、中々の美少女だ。
白のシャツと黒のミニスカートと白衣を身にまとい、ハイヒールをはいたその姿は女医だろうか。小さな眼鏡がやり手の女医を思わせる。
不思議なのはあの髪型だ。ある果物を思い出すのだが、好物だったりするのだろうか。
そして芸が細かいことに、注文票がカルテの形をとっている。

似合っている。本当に中学生なのか?と聞きたくなるぐらい似合っている。
けれどディーノの目を一番に惹いたのは目だ。赤と青のオッドアイではなく、強い意志を持った目。
雲雀もそうだが、大人でも早々持たない強さを宿す目に、ディーノはつい見惚れる。
そうなるといかに凪が可愛いか男は変態かを語り、魂を込めんばかりにうちの娘はやらん!と叫ぶ
過保護な父親のような姿も可愛く見えてくる。つまりは惚れた。

ディーノはそう気づいた瞬間、がしっと骸の両手を握ると、は?と眉を寄せる骸に叫ぶ。

「好きだ!!」

しん、と教室が静まり返った。騒ぐ骸達を放って仕事に精を出していたクラスメイトも客も一切の動きを止めた。
骸も例外なく動きを止めて、けれど点になっていた目に色を取り戻すと、クフフフフフと笑う。そして叫ぶ。


「そんなことを言って凪に近づこうとしても、そうは問屋が卸しませんよ!!凪は渡しませんからね!!」


ざまあみなさい!とクフフフ笑う骸に、骸さま、違うわ、と凪が呟き、綱吉が何でそうなるんだよとため息。
クラスメイトはこいつ馬鹿だとしらけた目。

「俺は諦めないからな、骸!」
「いい度胸ですね。受けて立ちましょう!!」

そんな遠回しに振られてもめげるものかと叫ぶディーノと、大事な凪に誰が近寄らせるものかと叫ぶ骸。
噛みあってないと誰もが思った。

「…骸の奴、せっかくあの変態乗り越えて好きになってくれる人できたのに。ねえ?凪」
「骸さま、がんばって」
「…うん。知ってた。凪も骸に負けず劣らずシスコンだって知ってた」

はああっと綱吉が肩を落とせば、視界の隅で黒い何かが舞っているのに気づいた。
何、と何気なく振り返って、ぎょっとする。

「なっ、ヒバリさん!お客さんに何してるんですかああ!!!」
「何って、身の程知らずにも君に見惚れてたからね。咬み殺してる最中だよ」
「馬鹿なこと言わないでください!ありえませんからそんなこと!!」
「馬鹿に馬鹿って言われたくないんだけど」
「どうせ俺は馬鹿ですよ!!じゃなくって!いやあ!!やめてしまってそのトンファー!!!」

なおもトンファーを振り回そうとする雲雀に、泣きながらしがみついて止める綱吉。
骸とディーノからそっちに視線を移したトンファーの餌食にならなかった女子達は思う。
こっちもこっちでなんだかなあ。

「好きだ好きだ好きだ!!お前が好きなんだ、骸!!あ、名字何だ?」
「認めませんったら認めません!!凪は僕のです!生涯僕のものです!名字?婿入りするつもりですか!僕は許しませんからね!」

地に沈む男達と壁際に避難している女子が、誰か助けてーと遠い目をし始める中、奥から出てきた京子がすごいねーと笑って、花が何この馬鹿二組と半眼で呟いた。

そんなこんなの並盛中学校文化祭、二年A組コスプレ喫茶。
営業妨害だとメイド姿のまま恋人である並盛町の支配者である風紀委員長に貸し出された綱吉達カップルと、同じ理由で凪から引き離され嘆く骸と、それを慰めて八つ当たりされるディーノの二組が姿を消したおかげで、コスプレ喫茶は無難に売上を伸ばした。
密かに人気のあった綱吉と骸が抜けたせいで少しばかり客足が遠のいたが、あのままいられることに比べたら瑣末事、と後に花は語る。

「僕のいない間に凪に声をかけた不届き者は誰ですかーーー!!!」
「うるさいぞ、骸。ほら、これヒバリさんから預かったメモ」
「は?」
「骸口説いてた人の携帯ナンバーとメアド。あ、お前のはヒバリさんに教えといてもらうようお願いしといたから」
「つ、綱吉くんは凪を毒牙にかけようとしてるあの男の味方なんですかーーー!!!」
「泣くな抱きつくなはーなーせーーー!!!」

そんな後日談と共に完。



リクエスト「雲綱・ディーノ→∞→骸で文化祭。骸+髑髏達が並盛生でツナ&骸(♀)が並盛のアイドル設定」でした。
・ツナと骸と髑髏のクラスがコスプレ喫茶。・雲雀はツナに見惚れた者を片っ端から噛み殺す。
・雲雀を見にきたディーノは骸に一目惚れ、声をかけようとするが、天然な骸は髑髏が狙われていると思い込み邪険に扱う。
・ディーノが報われないのはお約束。
綱吉も女体化でよかったでしょうか?骸さんだけだったらすみません。そして内容がカオスですね(汗)。
天然な骸の天然を勘違いしてる気がします。むしろ凪の方が天然っぽいですね。でも∞は書けたんじゃないかと!!

リクエスト、ありがとうございました!

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