Plus beau jour

学内で美男美女カップルで知られるアスランとフレイが、実はつきあっていなかったのだと周りに知られることなく恋人になったのはこの春のことだ。俗にいう泥沼劇を演じた末のカップル成立。
学内を騒がしたのが嘘のように二人は日々を穏やかに過ごしていた。

「アスラン、あーん」
「…甘い」
「でも美味しいでしょ?」
「ああ」

よし、とアスランの膝の上で満足気に頷くフレイの指についたチョコレートをアスランが舐める。
アスランに食べさせた際についたらしい。白く細い指を赤い舌がなぞる。

「もう一個食べる?」
「ああ」
「じゃあ、はい。あー」
「勉強見てくれる気あんのかあんたらはーーーーー!!!」

突然割り込んできた声に振り返れば、恨みがましそうな目で、けれど目元を赤く染めたシンが二人を見ていた。手元には教科担任から出された課題。これをクリアすれば追試は大丈夫だと担任のお墨付きだ。
追試を受けることになった生徒全員に配られている課題プリントは、教師の頼むから俺に休みをくれの叫びの現われだ。更なる追試は生徒だけでなく、教師もごめんだ。

「だから分からないところが出たら呼べって言っただろ?」
「呼べるか!」
「何で?」
「呼べる雰囲気作れよそしたら!!」

あんな目の前でいちゃいちゃのべたべたのラブラブを前にして、ここ分からないんで教えてください、なんて言えると思う方が可笑しい。
言える奴がいるとすれば、そいつは猛者か空気が読めない奴だ。いいや、それ以前に人間じゃない!!
アスランを睨みつけるシンと、きょとんとした顔で首を傾げるアスランの間で、フレイが慣れなさいよと一言。

「慣れらるか!!」

シンが初めてアスランと会ったのは冬だ。
その時は儚げ美人という形容がよく似合う人で、降る雪と一緒に溶けてしまいそうだと少し怖かったのを覚えている。
シンがアスランと出会った頃は、ちょうどフレイと幼馴染のキラとの三角関係の絶頂期にあったようで、色々と参っていたらしかった。
当時中学三年生という受験生だったシンは、勉強を見てもらいながら相談役を引き受けていた。
といってもたいしたことは言えなかったが、話を聞いてもらうだけでも十分だとアスランが笑っていたからよかった。
まあ、そういうわけで、このカップル成立に至るまでの経緯の大方は知っている。
だから学内で再会した時、幸せそうに笑うアスランに安心したものだけれど。

「…こんなバカップルになってるなんて誰が思うかよ」

ちくしょう、と毒づくぐらいは許されるだろうと、シンはまたいちゃつき始めたカップルから目を逸らした。

「この計算式間違ってるわよ」
「え?」
「ほら、ここ」
「どこだよ」
「ここよ、よく見なさいよ」
「痛っ、人の教科書で殴るなよ!」
「間違いを教えてあげてる先輩にいい度胸ね、あんた」

無自覚に毒舌のアスランと自覚済みの毒舌なフレイ。毒舌バカップル、と心で呟く。
口に出したら今度は何で殴られるか分からない。
美男美女で毒舌同士。頭もいいし、運動神経もいい。何だこのカップルちくしょう。

「てかアスラン遅くないか!?」
放送で職員室に呼ばれたアスランが生徒会室を出て行ってそろそろ四十分が経とうとしている。
フレイも備えつけの時計を見上げて、そうねと頷く。
「また厄介ごと押しつけられてるのかしら」
困った男、とため息。それに同感とばかりにシンも頷く。
下手に優秀なせいで教師はアスランをすぐに当てにする。それを断らないアスランもアスランなのだから、教師ばかりを責められないが。
「まだ生徒会の任期中だからって言っても、今年はアスランも受験生だし?そろそろ自分達で何とかしてほしいわよね」
ふう、と息をついてフレイが窓に目を向ける。見える廊下から恋人の姿は見えない。シンはそんなフレイをじっと見る。

アスランが好きになった少女。幼馴染と険悪になってまで好きになった少女。
どんな人なんだろうと思っていた。諦められない。でも諦めたほうがいいんじゃないか。
そう泣き出しそうな顔で呟いていたアスランに、どんな人がこんなにもアスランの心を掴んだのだろうと思っていた。
実際会って驚いた。一度会うと忘れられないほど強い印象を与える少女だった。
アスランとキラという二人の男の間で、少女も辛い思いをしただろうに。それから逃げることなく自分の中にちゃんと呑み込んでいるのだろう。
強い強い目でシンを見て、しっかりと自分を持っているのだと分かる言葉でシンに声をかけた。
その日のことはいつまで経っても忘れられないだろうと思う。アスランとの出会いも忘れられないだろうけど。

そんなシンの視線の先で、フレイは恋人の姿を待つ。さっさと帰ってきなさいよ、あの馬鹿と毒づくのはいつものこと。
可愛く言えば、早く帰ってきて、寂しいの、だろうかと思って、フレイはうんざりとした顔をした。
無理だ。自分には無理だ。けれど一度言ってみてもいいかもしれない。アスランの反応が楽しそうだ。
そんなことを思っていると、シンが声をかけてきた。

「あのさあ」
「何よ」
「何でアスラン選んだんだ?」

フレイは驚いたようにシンを見る。けれどシンが真剣な顔をしているのを見て、そうねえと笑う。
シンはアスランが好きだ。それは初めてシンに会った時から感じていた。
憎まれ口を叩きながら、可愛くない態度を示しながら、それでもアスランを慕っているのが分かった。
アスランもアスランでシンを可愛がっているのがよく分かって、微笑ましいやら憎らしいやら。
けれどフレイもフレイでシンを気に入って可愛がっているから、あんたに関係ないでしょ、とは言わない。

「何でって言われても答えられることはないのよねえ」
「は?」
「アスランと付き合う前はアスランのこと、キラより好きだって思ってなかったのよ」
なのにキラがフレイの元に戻ってきて、アスランとの仲がぎくしゃくしだして。
キラに対してはふざけんじゃないわよ、と思ったけれど、嬉しいと思う気持ちが全くなかったわけではなかった。けれどアスランと以前のように接することができなくなってしばらくすれば、キラに対して迷惑だとしか思わなくなった。
声をかけて抱きついて、生徒会室でお昼を食べて放課後デート。そんな日常がなくなって、可笑しなくらい弱くなった。

「キラに振られた時は嫌って言えなかったわ。別れたくない、捨てないでって言えなかったわ。泣いて縋るなんてしてやるものですかって思ったもの」
「アスランにはできたってことか?」
フレイはそうねえ、とシンの額に手を伸ばして指で弾く。ピシッといい音がした。
「いってええ!!!」
シンが弾かれた場所を手で覆って涙目。机に突っ伏した。
それを笑って、何すんだよ!と顔を上げるなり怒鳴りつけてくるシンに、びしっと指を突きつける。


「そうじゃなかったら、あんたがいちゃいちゃするなって怒鳴ってこないわ」


馬鹿ねと言いながら、幸せそうに微笑むフレイに一瞬惚けたシンは、そっかと目を伏せた。
その顔が嬉しそうだったのに、あら可愛いわと思って、こういうところがまたアスランを虜にするのよね、と憎らしくもなった。
そこに足音が聞こえた。そしてガラッとドアが開く音。二人が顔を上げると待ちに待ったアスランの姿。

「悪い、遅くなった」

「遅い!」

シンとフレイが声を合わせて言えば、もう一度悪いと謝罪の声。そしてほら、と二人に渡されたパックのジュース。
やった!と喜色満面のシンと、これ好きなのよね、と受け取るフレイ。
待たせたことはこれで許してやると言わんばかりの二人に苦笑して、アスランがシンの手元を覗き込んだ。

「何っすか?」
「どこまで終わったのかと思ったんだが」
「何が…って、げ」
すっかり忘れていた課題プリントにシンが顔を引きつらせると、アスランが呆れたようにお前な、とため息。
それを立ち上がったフレイがふふっと笑って、アスランの腕を引いて自分が座っていた椅子に座らせる。
そしてまたその膝の上に座って、首に回した腕にぎゅうっと力を入れる。自然と腰に回された腕に満足そうに笑う。

「後少しだろう?がんばれ」
「あんたが終わんないとデートに行けないんだから、さっさとしなさいよ」

そう言いながらまたいちゃつき始めた二人にシンが叫んだ。

「だから教える気、あんのかあんたらーーーーー!!!!!」

end

リクエスト「Le jour de destin」続編。「くっついたアスフレをラブく」でした。
シンはアスフレを兄姉のように慕っていて、アスフレはシンを弟のように可愛がってます。
そしてアスフレはちょっといちゃつかせすぎた気もします(笑)。
でもこれぐらいバカップルでもよくないだろうかと思うんでしょうが、どうでしょう?

リクエスト、ありがとうございました!

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