初めての喧嘩は戸惑うばかり

いちゃいちゃべたべた鬱陶しいのがシュナイゼルとルルーシュだ。
兄妹なのか恋人なのか、いいや新婚夫婦だ!というのがシュナイゼルとルルーシュだ。
たとえ公害でしかなくとも、周りに多大な精神ダメージを与えようとも、それがシュナイゼルとルルーシュなのだから仕方がない。
つまり何が言いたいかといえば、だ。

「ですからあれほど申し上げたではありませんか!」
「お前こそ、私があれほど言ったというのにこれは何なんだい?」
「兄上が邪魔なさるからです!私一人でも何とかなりました!」
「ならなかったからこうなったのだろう」
「ですから兄上が!!」

非常に険悪モードで喧嘩中の二人など、過去誰一人として出会ったことがないのだ。
何これ誰あれどうなってるのこんなことが有り得たなんて、と大きく目を見開いて呆然とするしかない。
いつもならば、抱き合って顔を近づけて微笑みあいながら周りをうんざりさせる会話をしているはずだというのに。
現につい先程まではそうだった。いちゃいちゃべたべた砂を吐くほど甘い会話が繰り広げられていた。
悲しいかな、それに慣れきってしまった周囲はそんな二人を気にすることなく各々の仕事に勤しんでいた。
なのに、だ。突然の怒鳴り声。思わず仕事の手を止めて振り向けば、何故か二人は喧嘩をしていた。

「そうやっていつも子供扱いして…!兄上にとっては子供かもしれませんが、私とて皇族です。兄上の手を借りなくても何とかできます!」
「何かあってからでは遅いだろう!」
「その時は私の責任です!兄上にはご迷惑をおかけしませんからご安心を!」
「ルルーシュ!!」

とうとうルルーシュだけではなくシュナイゼルまで声を荒らげ始めた。
そんなシュナイゼルを見るのは始めてで、周囲の困惑はより深まった。

一体何だ。一体どうした。一体何が原因で二人は喧嘩をしているのだ。
二人の言葉から推測すれば仕事の話だろうか。シュナイゼルほどではないが、ルルーシュも仕事を受け持つことがある。それにシュナイゼルが手を出したのだろうか?シュナイゼルがそうするほどに、その仕事は厄介だったのだろうか。
ルルーシュにしてみればプライドを傷つけられるだろうから、怒るのも当然だろう。
けれど喧嘩の原因がそれだとすれば、いちゃいちゃしていたのが一転険悪。そうなるには可笑しくないだろうか。
手を出すこともできずにそんなことを考えていた周囲は、困惑はしていても我が身のことではないからと油断していた。

「カレン!」

「はっ、はい!?」
見守っていた周囲の一人であるカレンは、ルルーシュから視線を向けられ、びくっと肩を震わせると、無意識に隣のスザクの腕を掴んだ。
「兄上は過保護が過ぎると思わないか!?」
「へ!?そ、それは…っ」
確かにと思うけれど皇族。しかも宰相閣下にそんなこと言えないわよ!と、突然向いた矛先にカレンは目を揺らす。

「枢木くん」

「は、はい!」
気の毒そうにカレンを見下ろしていたスザクが、シュナイゼルに呼ばれて慌てて姿勢を正す。
「この子はもう少し自分を知るべきだとは思わないかい?」
「え、あ、その…っ」
皇族相手に同意も否定もできない。していいはずもないじゃないか!!
けれど相手は上司。上司に尋ねられて答えないということもできない。どうしろと!!
皇族二人の問いに固まるスザクとカレンに周囲が同情の視線を向けた時、ルルーシュがムッとしたようにシュナイゼルに視線を戻した。

「兄上は私が自分を知らないとおっしゃるのですか」
「知ってくれれば私もあれほど手を出したりなどしないよ」
「…っ」

ルルーシュの顔が歪む。けれどぎょっとしたのは周りで、シュナイゼルは厳しい顔を崩さない。
珍しい。二人が喧嘩をすることも珍しいが、いつものシュナイゼルならばこんな時、すぐに抱きしめて宥めるだろうに。
皇族二人のこと、手も口も出せずにいた周囲も、これはさすがに誰か止めた方がいいのではないかと顔を見合わせたその時だ。シュンッとドアが開いた。

「あっれ〜?何この雰囲気」
「…お邪魔でした?」

きょとんとした顔で立っていたのはシュナイゼルの悪友のロイドとルルーシュの幼馴染のミレイだ。
救世主!!と呼ぶには微妙な性格をしている二人だが、兄妹と親交が深いだけに周囲の期待は大きい。
助けて!な視線を二人に向ける。唯一、ロイドとミレイを振り向かなかった兄妹は睨みあったまま。
そんな状況で、ロイドとミレイは顔を見合わせて首を傾げる。

「ルルちゃん。どうしたの?」

とりあえず幼馴染に声をかけたミレイに、ようやくルルーシュの視線が向いた。同時にシュナイゼルの視線も動く。

「ミレイ!」
「おっと」
きゃあとでも言えばいいものを、アッシュフォードの令嬢はそう声を上げて胸に飛び込んできたルルーシュを抱きとめた。
ロイドが悪友を見れば、ふいっと視線が逸らされた。まるで拗ねたような態度にロイドが、めずらしと呟いた。
その隣でよしよーし、とルルーシュの頭を撫でていたミレイの腕の中で、ルルーシュが兄上がと涙声。
「シュナイゼル殿下がどうしたの?」
「信じて、くださらないんだ…!」
曰く、

この間の夜会で声をかけられたが、私一人でも断れたんだ。なのに兄上が出てこられて…!
あげくに無防備だ警戒心がないだと。誘いにも乗らなかったし、ちゃんと断りだっていれた!
しつこい相手だってちゃんと断れた!なのに…!!

それを聞いて眉間の皺を深くしたシュナイゼルの側に寄ったロイドが、殿下と呆れ顔。

「プライド傷つけてどうするんですかあ」
もっとやんわりと違う言い方があったじゃないですかあ、と言うロイドは、ルルーシュが無防備で警戒心がないというシュナイゼルに同意している。
「…仕方ないだろう」
「何がです?」
シュナイゼルがムスッとした顔でロイドを見る。

「この間の夜会で、あの子が何人に声をかけられたと思う?何人に暗がりに連れ込まれそうになったと思う?私とて初めは手を出さなかったけれどね、ロイド。それが両手に足りなくなれば、さすがに一言いいたくもなるよ」

それは…うん。いい加減ムカッとするだろう。
するりとかわすのならともかく、暗がりに連れ込まれそうになっているのだから余計に。
しかも両手に足りないほどとなれば、そこまで我慢したシュナイゼルに同情する。どれほどはらはらしたろうか。

納得顔の周囲の中、ミレイもあらあ、とルルーシュを見下ろした。

「ルルちゃん。世の中、シュナイゼル殿下のような男性ばかりじゃないのよ?無理強いを働く最低な男もいるし、 それを盾に脅しをかける卑劣な男もいるの。だから暗がりに連れ込まれる前に、さっさと振っちゃいなさい」
世間話になんて乗らなくていいの。しつこいようならきっぱり無視して、人気のないところには絶対行かない。いい?
そう言って微笑むミレイに、顔を上げたルルーシュが頷く。大変に素直だ。
面白くないのはシュナイゼルだが、ムッとしたまま注意したせいで責めるような言い方になった自覚はある。だから反発されたのだと分かっているから何も言わない。

「でえ、殿下?」
「何だい?」
「その手に持ってらっしゃるの、何ですう?」
くしゃくしゃにして持っている紙がある。よく見ればルルーシュの手の中にもある。
う、と兄妹二人が呻いたのに、ロイドとミレイの目が光った。これは何か面白いものだと判断したらしい。

「ル〜ルちゃん」
「で〜んか」

にっこりと笑った二人を婚約者にした迷惑な人間は誰だろう、と兄妹が思ったどうかは知らない。


* * *


「つまり、恋文だったと」
「ええ。書類に混じっていたそうよ」

テーブルに肘をつきつつクッキーを口の中へ入れる友人に、マリアンヌは笑った。
偶然手に取った書類。シュナイゼルの手にはルルーシュの、ルルーシュの手にはシュナイゼルの恋文が渡ったらしい。
どうして書類に混じっていたのか。普通混じらないだろう。そんな突っ込みを胸に、C.C.はふうんと口元を上げる。
いつもの如くいちゃいちゃしていただろう二人が、それぞれの恋文を読んだ。どんな修羅場になっただろうか。

「あら、楽しそうね、C.C.」
「たまには波風一つたってもらわないとな」
まだ小さな子供の頃、暇つぶしがてら遊んでやったルルーシュは、何がどうなったのか兄のシュナイゼルと毎日毎日一緒にいる。いまや彼らの部下には二人ワンセットで捉えられているほどに、だ。
たまにしか見ないC.C.でも、いちゃいちゃべたべた鬱陶しいと思うほどだ。

「でも残念ね。もう仲直りしてしまったのよ」
「…早いな」
ちっと舌打ち。そんなに鬱陶しいのだろうか。マリアンヌは微笑ましいと思っているのだが。
C.C.はそんなマリアンヌに呆れた目を向け、紅茶を口に含む。
自分の娘が半分血の繋がった兄と新婚並みの仲の良さを周囲に振りまいている様子を見て、よくもまあ笑ってそんなことが言えるものだ。あれでは嫁に行くにも一苦労だというのに。

「ねえ、C.C.」
「何だ?」

「孫の顔はいつ見れるかしらね」

ごほっとC.C.がむせた。

end

リクエスト「「バカップルな〜」で2人の痴話喧嘩に巻き込まれる周囲」でした。
犠牲者は既存の方々と皇族。マリアンヌとC.C.がいれば最高、とのことでしたが、皇族忘れた…!!
す、すいません!!しかもロイドとミレイは犠牲者なのか…!?

リクエスト、ありがとうございました!

第二皇女は拳を握りながらこう言った。

「ルルーシュへの恋文?ああ、私が入れた。
何故だと?兄上とルルーシュを見ていて将来に不安を覚えないのか?あの二人は兄妹だ!確かに兄妹婚はあるにはある。だがな!あの二人は初めからお互い以外を無視しているのだぞ!? 夜会でどれほどの子息や令嬢がいると思う!?その中に互いの伴侶足りうる者がいるかもしれんというのに、あの二人は初めから視野に入れることすらせん!?ならば無理やりにでも入れさせねばと思うだろうが!!」

第三皇子は笑って言った。

「兄上への恋文?ああ、私が入れたよ。オデュッセウス兄上と色々まずいんじゃないかって話をしてね。
え?もちろんシュナイゼル兄上とルルーシュのことだよ。初めは絵になる二人でスケッチをとるのも楽しかったよ。
ただ最近あの二人、行き過ぎてると思わないかい?あれではお互い伴侶はおろか恋人だって作れないよ。
やっぱり兄としてはルルーシュにはいい相手と一緒になってほしいし、弟としては兄上にも家庭を持って幸せになってほしいしね」

第四皇女はきょとんとして言った。

「あら。ルルーシュとシュナイゼルお兄様の恋文だったら、毎日毎日送られてくるのよ?
でもね、二人共読まないの。まず使用人達に分別させてから残ったものを読むから、恋文は当然残ってないのよ。
え?コーネリアお姉様とクロヴィスお兄様が?…そうねえ、きっとルルーシュとシュナイゼルお兄様の刺激になるだけじゃないかしら。下手に邪魔すると逆効果だって思うもの。ねえ、そう思わない?」

兄妹の痴話喧嘩の後日談。

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