あなたにしかできないの、と涙が零れる。

危険なことをしている。
それでも、とわがままを言った。

ステージの真ん中で手を組んで目を閉じる。
どうかどうか成功しますように。アスランをこれ以上傷つけたくないの。
ただその一心で待ち続けていると、こと、と音がした。
顔を上げれば開けたままだった扉から男の人が一人。きっとあれがキラさん。銃を構えてる。その後ろから女の人が前に出た。
ああ!!

「ラクス様!ラクス様、来てくださったんですね!」

安堵に笑みが漏れればキラさんが目を丸くして、そして銃を下ろした。ラクス様はふわりと微笑んで、ええ、と。
「わたくしを呼ばれたでしょう?ミーアさん」
「よ、かった…っ」
息をつけば体の力が抜けた。
いきなり座り込んだあたしに二人は驚いて、顔を見合わせると客席を下りてきた。
ステージの下、ラクス様はステージの端に手を置いて大丈夫ですか、と心配そうな目を向けてきて。はい、と頷いたあたしはきっと涙目だった。
「これ、君だよね」
キラさんがあたしにカードを見せる。それに目をやって頷く。
確かにあたしが出したものだ。ハロに頼んで二人に接触して渡してもらった。
「どういうことなの。アスランを助けてって、アスランに何があったの」
心配なのか、睨みつけるような目を向けられてびくっと震える。それに気づいたラクス様がキラさんをたしなめた。
「キラ、怯えていらっしゃいますわ」
「でも、ラクス!アスランに何かあったんだよ!?議長が何かしたかもしれないのに!!」
叫ぶキラさんに、まだそうと決まったわけではありませんわ、とラクス様。
そう、あたしは一言もそんなこと言ってないし、書いてない。アスランを助けて。そしてここで待ってますとそれだけ。
「大丈夫ですわ、キラ。こうしてミーアさんが危険の中知らせてくださったのです。まだ助けることができるということですわ」
そうですわね?とあたしを見るラクス様に頷く。
まだ間に合う。きっときっと大丈夫。だってラクス様が来てくださったんですもの。
「お話を聞かせていただけますか?ミーアさん」
こくん、とまた頷く。
ぎゅうっと胸の前で手を組んで目を伏せる。そして深呼吸すると、開けた目で二人を見ながら震える声で話を始めた。

「アスランは今、ミネルバにいます」
ご存知ですよね、と聞けばラクス様が頷いて、キラさんが眉を寄せた。
「ザフトとして地球軍と戦っていました。ですが問題が起きたんです」
問題、とラクス様が繰り返す。
そう、問題。戦えば戦うほど、その問題は水面下でざわめいた。
「アスランはプラントを守りたかった。オーブだって守りたかったんです。戦争がしたいわけじゃないんです」
ラクス様とキラさんが顔を見合わせた。話が見えない、といわんばかりに。
もしかして口ではたしなめながら、ラクス様もキラさんと同じように議長がアスランに何かしたと思っているのだろうか。だから話が見えない。
違うの。そうじゃないの。アスランに何かしたのは議長じゃない。

「アスランを…殺そうとしてる人達がプラントにいるんです」

「なっ…」
「どういうこと!?」
「アスランは危険だって。ザラだから、アスランがこの戦争を仕組んだんだって。そしてまた英雄になって、ザラの時代を取り戻そうとしてるって…!!」

どうしてそんなことを考えつくのだろう。
あんなに優しい人が戦争を起こす?あんなに苦しんでいる人がどうしてそんなことするっていうの!?

「お願い、ラクス様!アスランを助けて!このままじゃアスラン、いつか殺されちゃうわ!!」
がしっとステージ下のラクス様の肩を掴む。お願い、と零れる涙。
アスランは疲れてきてる。大丈夫だと言うけれど、そんなことないことぐらいあたしにも分かる。
いつどこで襲われるか分からない。どこにいても気が抜けないのだ。いくらアスランが強くても限界はある。
その限界を超えたらアスランはどうなってしまうのだろう。そうなる前にどうか。どうかラクス様。
「止められるのはラクス様だけなんです!ラクス様しかいないの!!」
どうかアスランを助けて。あの人達を止めて。
お願い、と繰り返せば、そっと腕に手が添えられた。顔を上げれば優しい微笑み。
「大丈夫ですわ、ミーアさん。わたくし達にとってアスランは大切な仲間です。必ず助けますわ」
「ラクス様…」
だから安心してください、と柔らかく告げるラクス様の隣でキラさんも力強く頷いて。
「…本、当に?本当にアスランを助けてくださいますか?」
「ええ」
「本当に止めてくださいますか?あの人達を」
「必ず。お約束いたしますわ」

「クライン派を」

「…え?」
ラクス様とキラさんが首を傾げると、舞台裏から現れるザフト兵。舞台の上から、そして舞台を下りてラクス様達を囲んだ。
「どういうこと!?騙したの!?」
ラクス様を抱き寄せたキラさんが睨みつけてくる。
あたしはラクス様の肩を掴んでいた手でラクス様の左腕を両手で掴むと首を横に振る。
「アスランを、助けてくださるんでしょう?助けて。アスランを助けて」
「じゃあこれは何なの!アスランを助けてって言っておきながら、僕らをどうするつもりなの!!」
激昂するキラさんにだって、と止まらない涙を流したまま叫ぶ。


「アスランはラクス様の側に、AAにいないから命を狙われてるんだもの!!」


目を見開くラクス様達。
あたしは逃げないで、とラクス様に懇願する。
助けて、助けて、助けて。あなたを心棒するあの人達からアスランを助けて。

「どういう、ことですか?」
「あんたらがアスラン堕としたから、あいつらはアスランはあんたらの敵だって思ったんだよ!」
後ろから声。シンだ。
「あなた方の敵は自分達の敵。アスランはあなた方を裏切った。だから殺さなきゃいけないんだそうですよ?」
もう一人、ルナマリアだ。
「なぜ裏切ったのか。ザラ政権の復活のため。そのために必要なものは混乱、名声。ゆえにアスランが今回の戦争を引き起こした、という見解の元での行動です」
そして、レイ。
ミネルバの赤服が三人、あたしの後ろでラクス様達を見下ろしてる。
ラクス様達は視線を上に、そして下、あたしに止める。
「クライン派の方々がそうおっしゃったのですか」
「アスランを殺そうとした人達が言ってました」
「そんなの!言わされてるだけかもしれないじゃないか!」
「調べたんです、ちゃんと」
「調べたのは議長でしょ!?」
なら信用できない、と言いたげなキラさんにホール内に敵意が満ちた。
ここにいるのはプラントの人間ばかり。議長をトップに、毎日を生きている人ばかり。
なのにキラさんは言う。アスランを殺そうとしているのは議長じゃないのかって。クライン派に罪を被せようとしてるんじゃないかって。

「ふざけんな!何で議長がアスラン殺そうとするんだよ!プラントを守るために戦ってる人、殺す理由がどこにあるんだよ!!」
「クライン派にだってないよ!!」
ラクスの意思を汲んで一緒に戦ってくれる人達。助けてくれる人達。その人達がアスランを殺そうとするはずがない。
キラさんがそう言えばラクス様も頷いた。
「何か誤解があるのやもしれません」
「どんな誤解ですか」
ラクス様がクライン派の人達を信じたい気持ちは分かる。あたしだって議長を信じてるもの。
でも!!
「アスランとミネルバの艦長さんも知ってたんです。全員を知ってたわけじゃないけど、それでも襲ってきた人がクライン派だって!!」
なのに誤解だろうなんてどうして言えるだろう。
アスランとグラディウス艦長が断定して、それをちゃんと調べてやっぱりそうだって確信して。
それでも目を見開いたラクス様が首を横に振った。
「ミーアさん。こちらでも調べてみます。わたくしはクライン派の方々を信じております。ですがもし本当にアスランの命を狙っていらっしゃるのだとしたら必ず止めてみせます」
ですから、一度AAに返してほしい、とラクス様が言う。
分かりました、と言うと思ってるのだろうか。言えるはずがない。絶対言えない。

アスランが命を狙われてるのに。
ザラは滅ぶべきだと嘲笑うのに。
ラクス様のためにと襲撃者は叫ぶのに。
戦場に出て戦って、ようやくの休息すらその人達に奪われるのに。
アスランが安心して眠れるのは議長が用意してくれたホテルでだけなのに。

そんな状態なのにせっかく会えたラクス様を逃がせるはずない!!

「嫌です」
「ミーアさん」
「嫌です!!アスランを助けてくれるって言ったじゃない!!」
「ですから、ミーアさん」
「もう待てないの!いくらアスランが、ザフトの人が撃退しても次から次へといろんな手を使ってくるんだもの!」
ミネルバにも物資の補給の際に荷物に紛れて入り込んでたり、他の部隊との合同任務の際に流れ弾と偽って撃ってきたり。
「ねえ、どうしろって言うの!あたしじゃ駄目なんだもの!本当のラクスじゃないから駄目なんだもの!アスランを守れない!!」
だから助けを求めているのだ。
ラクス様にとってあたしはどんなに不快な存在だろう。嫌悪した目で見られるかもしれないって思ったら怖かった。それでもアスランには代えられない。どんなに罵られたっていい。アスランを助けてくれるなら、もう何だっていい。
「おねがい…っ、助けて。時間がないの。アスラン、もう疲れちゃったの」
お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い!!

静まり返ったホールにあたしのすすり泣きだけが響く。
ラクス様は何も言わない。あたしの手を振り払うこともしないけど。
そんな中、一番初めに口を開いたのはキラさんだ。キラさんはじゃあ、と言う。

「アスランを返して」

息を呑む音が聞こえた。
誰のだろう。あたし?シン?レイ?ルナマリア?それともラクス様だろうか。
うつむいたままのあたしの上にキラさんの声は振ってくる。

「それが一番でしょ?クライン派でもそうじゃなくても、AAにいればアスランは襲われたりしない。それに元々アスランは僕達の仲間なんだ。アスランだって嫌だなんて言わないよ」

ゆっくりと顔を上げる。
キラさんは何も可笑しなことは言ってない、そんな顔をしてる。
隣のラクス様はキラさんを見ていて、そしてまたあたしを見る。
「アスランはもう限界なのですね?」
「は、い」
そうですか、と目を伏せたラクス様に体がカタカタと震えだした。
いや、いや、いや。もしかしてこの人は。もしかしてこの人は。
ラクス様が目を上げて、では、と言った。
「アスランに伝言をお願いできますか?」
「でん、ごん」
いや、言わないで。言わないで。だってあなたはラクス様でしょう?慈悲深き平和の歌姫、でしょう?

「あなたも知る方を迎えに送りますから、どうか安心して帰ってらしてください、と」

「ふざけんな!!!」

シンが、叫んだ。

「何だよそれ!帰ってこい!?嫌だなんて言わない!?何でそんなことが言えるんだよ!!」
「アスランを助けてって言ったのは君達でしょ」
どうして怒るの、と眉を寄せるキラさんにシンが怒るに決まってるだろ!と前に出た。
「俺達は本当ならあんたらの力なんて借りたくなかったんだよ!でも他に手がなかったから、無理やりでも連れてこうって!」
確かに乱暴な手段だ。でも正当な手段なんて使っている時間はない。
今はアスランは議長が用意した部屋でようやくの眠りを得ているけれど、それだって疲労を完全に回復させるものじゃない。
大丈夫だ、何でもない。アスランはそう言って笑うけど、本当は全然大丈夫じゃないことぐらい皆知ってる。回復しない疲労が溜まってるのも知ってる。なのに何もできない。悔しい。
シンだってそうだ。だからこんなにも怒ってる。何もできない自分に対する怒りも混じってるんだろうけど。
そんなシンにキラさんも声を荒らげた。

「僕らがザフトに行けるわけないじゃない!議長はラクスを殺そうとしたんだ。無事に帰してくれるなんて思えない!」

何それ、と思う。
思って口を開こうとした時、カツ、とヒールが床に落ちる音。

「一国の代表に殺人の罪を着せるんです。証拠はあるのでしょうね?」

レイ、だ。
低い声が更に低くなってる。振り返れば青の目が冷たく冷たくキラさんを見据えていた。
思わず身震い。
頭に血が上ってたシンでさえ、一瞬にして頭が冷えたらしい。レイ、と小さな声を洩らした。

「ラクス、は…ラクスはプラントの暗殺部隊に命を狙われた。だから僕らはオーブを出たんだ」
「それで?」
「暗殺部隊なんて動かせるのは評議会でも偉い人ぐらいでしょ」
「だから議長だと?」
「そのすぐ後にその子がラクスの名前を騙ったんだ!」
「なるほど」

くっとレイが笑った。
人を嘲るように笑うレイに、シンとルナマリアが戸惑うのが見えた。
あたしは彼らとのつきあいは浅いから分からないけど、きっとこんなレイを見たのは初めてなんだろう。
起爆スイッチはなんだったのだろう。アスランのことで怒ってたのは確か。でも静かな怒りだった。それが爆発したのは何故?
分からないけど、レイは確かに怒ってる。

「ラクス・クラインが命を狙われた。動いていたのはプラントの暗殺部隊。彼らを動かせるのは評議会の上層部。時同じくしてプラントにラクス・クラインと名乗る少女が現れた。本物がプラントにいないことを承知しているはずの議長がそれを許している。つまりプラントに現れたラクス・クラインは議長が用意したもの。自分の都合のいいようにその存在を利用するために。そこで邪魔になるのは本物。ならば暗殺部隊を差し向けたのは議長」

そういうことですか、と首を傾けたレイを、キラさんがそうとしか思えないと睨みつける。
腕の中のラクス様はレイをじっと見ている。警戒、してる。
あたしはああ、そういう意味だったの、と納得した。
レイの説明を聞いてやっとキラさんの言ってることが分かった。少し考えれば分かったかもしれないけど、聞いただけだとそれでどうして議長がラクス様を殺そうとしたって言うのか分からない。
でも。

「あなた方のその推測と、我々のクライン派がアスランの命を狙っているというあなた方が言うところの推測。どう違うのでしょうか」
「え?」
「証拠などないでしょう?議長がラクス・クラインを殺そうとした証拠などこにもない。なのにあなた方は推測をさも確定したかのようにおっしゃいます」
「それは!」
「ならば我々の『推測』も信じていただきたいですね」

うっすらとレイが笑う。
怖い。
びくっと体を振るわせたキラさんを睨みつけて、レイが銃を構えたままのザフト兵に手で合図する。捕まえろ、と。
それにラクス様がお待ちなさい、と声を上げる。

「わたくし達はアスランを助けたいのです。アスランをザフトから連れ去りたいのではありません」
レイが今初めてキラさんから視線を外してラクス様を見た。
「あなた方がアスランを大切に思っていらっしゃることは分かりました。ザフトに戻ったアスランの思いも分かっております。ですが今はそのことに囚われている場合ではないはずです」
「なっ」
シンとルナマリアが声を上げた。それをレイが手で押さえて、それで?と先を促す。
「アスランの命を助けることが第一でしょう?」
「ええ」
「ですからアスランをAAに預けてください」
確かにAAに身を寄せていればアスランが裏切り者ではないという証明になる。
でもそんなのは酷い。

「それはあなた方に賛同していないアスランに対して、命を盾に賛同を強いる行為だと理解していらっしゃいますか?」

驚くラクス様とキラさん。
でもそういうことだ。独自の立場で動くAA。彼らの目的は戦闘行為の停止。そのためにザフトや地球連合軍がどれだけ被害にあったか。
その艦に乗るということは彼らの行動に賛同するということ。ザフトに戻ったアスランに、命を助けてあげるからAAのすることを黙って見ててって言ってるのと同じこと。

「違う!僕らはそんなこと思ってない!」
「思ってなくてもそういうことなんだよ!」
シンが叫ぶ。
キラさんが首を振る。
「違う!僕らはアスランを助けたくて…!」
「そうですわ。わたくし達はアスランにわたくし達の意思を強要しようなどと思っておりません」
「なら、アスランが否を唱えれば、あなた方は戦闘介入なさらないとおっしゃいますか?」
「それとは話が違うよ!僕らは僕らの考えがある。必要だと思うからこそ行動する。アスランが駄目だって言っても僕らはそれが正しいことだと信じてるから…」

「ずいぶん勝手ですね」

ルナマリアがあたしのすぐ後ろに立った。見上げれば震える拳。
「それってレイが言った通りじゃないですか。何も違わないじゃない」
だからアスランをAAに何て送れない。あたしもそう思う。そんなのは酷い。慈悲なんかじゃない。優しさなんかじゃない。違うわ、ラクス様。


「アスランを、助けて」


五人の視線があたしに向いた。
あたしはラクス様の腕じゃなくて手首を握った状態で、ラクス様をしっかりと見てもう一度言う。
「アスランを助けてください、ラクス様」
「ミーアさ」
「あなたに恨まれても憎まれても構いません。嫌われたっていいし、罵られたっていいわ。アスランを助けるためにあなたが必要なんです、ラクス様」
ラクス様は命を狙われたことがあるという。それが議長だとラクス様達は言う。
それが本当かどうかは知らないけど、本当だったとしたら連れて行けばラクス様の命はまた危険に晒されるのだろう。
でもオーブで狙われた時とは違う。今、ラクス様の命を奪っても誤魔化すことはできない。アスランよりは安全だ。


「 ア ス ラ ン を 助 け て 」


ザフト兵がラクス様とキラさんを押さえると同時に掴んでいた手を放す。
目からはいつの間にか枯れていたはずの涙がまた流れている。
ミーアさん!と叫ぶラクス様と放してと叫ぶキラさんを見ながら微笑む。

もしあなた達に何かあったとしても、あたしは後悔しないわ。


だってあなた達の行動がアスランの命を危険に晒したんだもの。


助けて。
助けて。
アスランを、助けて。

「アスランを、助けて」

end

リクエスト「新ザフトレッドとアスミアでアンチAAオーブ」 でした。

…すいません、アスランが出てきてません(滝汗)。
本当はキララクとのやりとりはこれの半分で終わって、残り半分はアスランが出てくるはずでした。
すいません。本当にすいません!!アスランいなくてすいませんでした!!

リクエスト、ありがとうございました!

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